「豊かさ」の誕生

- 作者: ウィリアムバーンスタイン,William J. Bernstein,徳川家広
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2006/08
- メディア: 単行本
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知的好奇心を満足させてくれる本。オススメ。
経済的成長の条件として、私有財産制、科学的合理主義、資本市場、効率的な輸送・通信手段の4つの要素を満たすことが必要であることを、実証している。
この本を読んだ直後に、偶然、中国で土地の私有を認める法律が施行されることについてのThe Economistの記事 Property rights in China: China's next revolutionを読んだ。経済成長を実現するに当たっての私有財産制の重要さを学んだ後では、この法律が中国が今後も経済成長を続ける上で欠かせないものであることが深く理解できた。もし、この本を読んでいなかったら、記事の理解の深さが比べ物にならないくらい浅かっただろうと思う。この本のように、世界で起こっていることを認識し理解するための強力なパースペクティブを提供してくれる本は本当に価値があると思う。
ところで、上記4要素に関する考察が秀逸なためあまり目立たないが、貧富の格差が経済成長に与える影響についての考察もきわめて優れているので、メモ。
富と所得の格差があまりに大きくなると、平均的な市民の幸福感は損なわれ、人々は社会の一員であるという気持ちを失ってしまう。これこそがアルゼンチンで起きたことだった。すると財産権を守るためのコストは爆発的に増大し、やがて経済成長自体も犠牲になるのである。
つまり、私有財産制は経済成長には欠かせない。けれども、それは同時に相対的な貧富の格差を拡大する方向に作用する。もし格差の拡大をほうっておいたままある臨界点を越えると、今度は私有財産制を自体が脅かされるリスクが増大する。よって経済成長を維持することを目指すならば、同時に富の再分配の機能が欠かせない、ということ。
では富の再分配はどの程度が理想的なのか、といえば、答えは分からないが、まったく再分配のない社会と、完全に結果平等の社会の間のどこかに最適点があるはずで、われわれ、特に政治家はそれを探求・実現する努力を怠ってはいけないと思う。教条的に、「自己責任」、あるいは「結果平等」を求めるとするならば、それはどちらも経済的成長にはマイナスになるのだということを認識するだけでも、近年かまびすしい格差に関する議論がより生産的になるのではないか。